トップページへ戻る衛研物語について筆者紹介沖縄戦後史年表リンク掲示板お知らせ・更新 mail: chokei@nirai.ne.jp 

吉田朝啓が公衆衛生の最前線「衛生研究所」を舞台に描く、
知られざる戦後・沖縄のリアルな裏面史!


1954年(昭和29年)頃の国際劇場。この名前から、国際通りと呼ばれるようになった。
 吉田朝啓

琉球衛研物語

 Ryukyu Eiken Monogatari 1946~1993

波の上宮。1954年頃。

赤痢、日本脳炎、基地公害、米軍毒ガス移送から、ハブ、性病、アスベスト問題まで、ドクトル吉田朝啓が第五代所長として勤務した「琉球衛生研究所」は、米軍統治を背景に、戦後の沖縄の混乱と復興の中で、ありとあらゆる問題が発生した。ここには、歴史家や、マスコミが取り上げていない、沖縄戦後史に埋もれた特異な陰の部分が横たわっていて、史料的価値が高いばかりか、現代の日米地位協定に基づく、様々な問題と通底していて、見逃せない。
(編集人、サイト制作&運営 樋口謙一)


琉球衛研物語 §52.
ひよこの特攻隊


ハブ殺しの薬品として、カリュームが有効だということが判り、
生態研究班が凱歌を上げて勇み立っているとき、
冷徹でいつも皮肉ばかりいう化学室の一人が、
「呑ませたら効くかも知れないが、どうやって自然界のハブに呑ませるの」
「ハブ捕り名人に捕ってきてもらってからカリュームを呑ませるの」と、
嫌味な疑問をぶっつけた。

冷や水を引っ掛けられた生態研究班が答えに窮していたら、
ベテランの川村研究員が、おもむろにいった。
「わけないよ、餌の動物に背負わせて食いつかせればいいのよ」
「ひよこがいい、ひよこの羽の下、腋の下にカリューム入りカプセルを爆弾のようにくっつけて突撃させればいい」。



この柔軟で奇抜なアイデアに、
並み居る面々が一斉に感動の拍手を送った。

救われた思いで、意気揚々と生態研究室に戻った西江君たちは、
早速、カリューム爆弾を抱いた“ひよこの特攻隊”を仕立てて、
ハブのケースに送り込んだ。

チョウケイは、一瞬、戦時中、鹿屋基地から特攻隊を見送ったという
基地司令官や整備兵たちの心境になったような気がしたが、
ハブがひよこに飛び掛った瞬間、直ぐ我に返った。

ひよこに噛み付いたハブは、さっと身を引いて再び元の姿勢に戻り、
巻いたとぐろを微かにずらしながら次の瞬間を待つ。

そして、邪魔が入らないことを確かめてから舌を出し入れしながら、
ゆっくりと、すでに虫の息となっているひよこに近づく。

まだ微かに体温の残るひよこを咥えると、
下あごを交互に前進させながら頭の方から呑みこんでいく。

「何故、尻尾でなく、頭の方から呑むのか」
「どうして頭の方角が判るのか」、
チョウケイはかねてから不思議に思っていたことを気にしたが、
ひよこの幼い羽根に包まれた“カリューム爆弾”が
ハブの喉から腹へと落ちていくのを見ると、直ぐまた我に返った。

固唾を呑んで見守っていた一同、ふーっと息をして観察を終えた。

だが、カリュームが吸収されるまで時間がかかる。
控え室でお茶を飲みながら待っていると、スカートを翻して、
西江君が軽やかな足取りでやってきた。

「伸びちゃいました」
「ほう、伸びたか」。

ひよこを呑みこんだハブは、しばらくとぐろを巻いたままじっとしていたが、
やがてとぐろを崩し始めて、身もだえし、
結局、1時間足らずの間に、だらしなく伸びてしまったという。

この“ひよこの特攻隊”の活躍のチャンスが、間もなくやってきた。

「ひめゆり部隊」という映画が、現地沖縄でロケされることになり、
「南風原陸軍病院跡」のある南風原町の原野で撮影されるという。

役者たちが草むらの中を駆けたり転んだりしなければならないところは、
名だたるハブ地帯で、季節は正にハブのシーズン真夏の7月。

そこで、現地応援スタッフの助言もあって、
ロケ地一帯のハブ対策について衛研ハブ支所と
財団法人沖縄県公衆衛生協会の指導を受けることになったのである。

役者の中には吉永小百合など一流の女優・男優がずらり。
ハブに咬まれて怪我でもしようものなら、国家の一大事!

ハブ生態班は、まずロケ地全体を防蛇ネットで囲むことを提言した。
そして、すでに考案されていたハブ捕獲器などの戦術兵器を
至るところに設置し、“ひよこの特攻隊”も発進させた。

効果は覿面、ロケ地の安全は確保され、撮影が滞りなく進み、
美男・美女たちは無事東京に帰還していった。

“ひよこの特攻隊”に抱かせるカリューム爆弾の外に、
なにかもっと有効な物はないか、研究所の昼飯時には、
喧々諤々と妙案・珍案が続出した。

さすが研究職。
この方面のジンブンは人並み以上。
「剪定鋏の針金のような鋼鉄のバネの先端を曲げてから、
バネを畳んで同じ長さのゴムの管に差込み、ひよこに抱かせる」
「ハブの消化管の中でゴムが消化されると、バネが弾けて、ハブは死ぬ」。

この案は、人気投票によって、所内一位となったが、
実験してみたら、弾けたバネに腹部を貫かれたまま、
ハブがかなり長く生存することが分かり、
それに、ハブが野垂れ死にして後もバネが残り
人体を傷つける危険性が指摘され、不採用とされた。

「ハブの大好きなマウスの尻尾の根元に大き目の釣り針を付けて、
ハブ地帯に仕掛ける」
「近くに鶏などハブの嗅覚を刺激する動物を誘引材として置けばハブは寄ってきて呑み込む」。

この案は、実験の結果、かなり実用性があるとして、
いずれ駆除実験現場に適用されることになった。

しかし、呑みこんだハブが、のた打ち回って腹が割け、
釣り糸に絡まって死んでいる姿は残酷で、
動物愛護協会から文句が出そうである。


次のセクション「§53.アフリカマイマイ 」へ




琉球衛研物語
総インデックス
全72セクション・リンク
§1 全国の衛生研究所とその働き
§2 琉球衛生研究所の生い立ち
§3 衛研の庁舎新築
§4 衛研への本土学者の応援
§5 保健婦のためいき
§6 ハブの啼き声
§7 地から湧く日本脳炎
§8 燃える井戸
§9 アルミニューム工場誘致問題
§10 ワシントン条約とサンシン
§11 ホテルに泊まったニシキヘビ
§12 性病Gメン
§13 毒ガス移送問題
§14 米軍PCP汚染事件
§15 沖縄県公衆衛生協会誕生
§16 牛糞をこねる男
§17ゴールデンシャワーとの出会 い
§18 熱帯花木オンパレード
§19 田熱・レプトスピラ症
§20 テイシューが湧く井戸
§21 蚊が死なない
§22 野ネズミが消えた
§23 バガス病
§24 危し宮古島地下水脈
§25 宮古島地下水対策協議会誕生
§26 水納島上陸作戦
§27 ハブとの住み分け大作戦
§28 国場川を埋め尽くす死魚
§29 南大東島水銀事件
§30 ハブの成長曲線
§31 血清銀行
§32 吹きまくる風疹
§33 轟く基地公害
§34 怒る中山貞則長官
§35 MSA対決
§36 毒牙の生え変わり
§37 寄生虫予防協会誕生
§38 多発する赤痢
§39 魚介類のコバルト汚染問題
§40 シガテラによる食中毒
§41 先天性代謝異常検査開始
§42 「青年の家」とハブ
§43 全校生徒眼が痛い!?
§44 ソロモンの星の下で
§45 平敷式血液塗末標本処理器
§46 古戦場ガダルカナルで
§47 塩漬け琉球列島
§48 中華料理店症候群
§49 逃げたハブ
§50 タリュウム中毒事件
§51 タバコとハブ
§52 ひよこの特攻隊
§53 アフリカマイマイ
§54 杜総明先生との再会
§55 沖縄にも肺吸虫
§56. 衛研、大里の新天地へ
§57 新庁舎建設委員会
§58 コレラ菌安謝川を汚す
§59 クワズイモのえぐ
§60 ハブ探索犬
§61 目下フンセンチュウ
§62 アスベスト撤去作戦
§63 JICAの研修生受け入れ
§64 久高島にハブ
§65 ヴェロニカ製ろ過装置
§66 のた打ち回る島々
§67 サミット先生のこと
§68 カンボジア沖縄友好の会誕生
§69 アセアンの森
§70 チョウケイの転戦
§71 寝たきり予防
§72 郷土劇 “ゆいまある





トップページへ戻る衛研物語について筆者紹介沖縄戦後史年表リンク掲示板お知らせ・更新 mail: chokei@nirai.ne.jp 
Copyright © Yoshida Chokei. All Rights Reserved.

inserted by FC2 system