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吉田朝啓が公衆衛生の最前線「衛生研究所」を舞台に描く、
知られざる戦後・沖縄のリアルな裏面史!


1954年(昭和29年)頃の国際劇場。この名前から、国際通りと呼ばれるようになった。
 吉田朝啓

琉球衛研物語

 Ryukyu Eiken Monogatari 1946~1993

波の上宮。1954年頃。

赤痢、日本脳炎、基地公害、米軍毒ガス移送から、ハブ、性病、アスベスト問題まで、ドクトル吉田朝啓が第五代所長として勤務した「琉球衛生研究所」は、米軍統治を背景に、戦後の沖縄の混乱と復興の中で、ありとあらゆる問題が発生した。ここには、歴史家や、マスコミが取り上げていない、沖縄戦後史に埋もれた特異な陰の部分が横たわっていて、史料的価値が高いばかりか、現代の日米地位協定に基づく、様々な問題と通底していて、見逃せない。
(編集人、サイト制作&運営 樋口謙一)


琉球衛研物語 §41.  
先天性代謝異常検査開始


子供が生まれる前からすでに何らかの異常な状態を持っていて、
そのまま生まれて、異常を生涯引きずる場合がある。

でも、異常 だと判った場合でも、出産直後に手当てすれば、
助かる場合が少なくない。

例えば、母親の血液型と生まれる赤ちゃんの血液型が
合わないということが、前もって判っておれば、
出産直後に父親の血液とすっかり交換すれば子供は
「血液型不適合」の障害から救われる。

ある日、県庁から召集がかかり、
講習会に参加したチョウケイは 、複雑な気持ちで衛研に帰ってきた。

「世の中には先天性代謝異 常という病気があるということ」
「学生時代には聞いたこともない、最近確認された珍しい病気で先天性であること」
「それがなんと何十万分の一の発生率でしかないこと」
「沖縄県内で年に一人か二人しか発生しないとても稀有な遺伝病だが、
厚生省の企画で各県の衛研で実施することになったこと」
などを、考えながらである 。

(1970年代後半)人の遺伝子(DNA)は全身の細胞の中にあるが、
その組み合わせが少しでも不具合になると、
その不具合の場所に相応する身体(脳も含めて)に
変調を来たすようになる。

先天性代謝異常というのは、
遺伝子のどこかに“母乳の中のある特定の成分を消化するための酵素が欠ける”ために起こる病気だそうである。

そして、ここが大事なところだが、そんな赤ちゃんでも、
母乳ではなくその特定の成分の違う特殊ミルクで育てれば、
なんの障害もなく、立派に育つというのだから、
チョウケイは驚くやら感心するやら。

火照った頭を振り振り衛研に入ると、総務課長が迎えていった。
「所長、先天代謝異常の検査に関して、
担当技術者を選出するようにとの通達です」

先天代謝異常!
厚生省の計画によれば、全国で毎年生まれるおよそ200万人の
新生児全員から、血液と尿を採取して、
それぞれの都道府県の衛研に送り、衛研の検査で陽性と出たら、
すぐさま新生児を取り扱った(血液と尿を提出した)産婦人科の
主治医に通報する。主治医は厚生省が用意した特殊ミルクを
母親に提供するという段取りである。

代謝異常の検査は一種の臨床検査で、
滅菌消毒、寒天培地の準備、検体の処理、結果の観察など、
一連の操作は熟練した臨床検査技師の分野である。
幸い、衛研には創立以来の超ベテラン永田技師、仲本技師の
お二人が健在だ。

話はさかのぼるが、1946年、
米軍野戦病院をそのまま民間病院に転用した米軍は、
間もなくこれを沖縄中央病院と名づけて、琉球政府に委譲した。
現在の沖縄市コザ十字路にある警察署や“楠木通り”の辺りである。

病院そのものはかまぼこ型のコンセットで、
決して立派な建物ではなかったが、
必要最小限の臨床各科を揃えた総合病院で、
当時の沖縄では一番頼りになる医療機関だ。

特徴的なのは、この病院に付属する形で、
中央衛生試験場という検査機関が設置されたことで、
病院の臨床検査はもちろんのこと、院外に打って出て、
風土病などの野外調査も展開していることである。

この中央衛生検査場が淵源となって年々発達し、
現在の衛研になったということである。
さらに、公衆衛生看護婦と臨床検査技師の養成コースも設けて、
パラメディカル(医療要員)の育成にも乗り出しているという事実がある。

当時の米軍政府は、軍人・軍属とその家族を防衛するという
彼らなりの第一目的があったにしても、中央病院を作り、
医療要員を養成し、保健所網を整備するなど、
伝染病対策と医療公衆衛生の施策を
次々と進めていったという事実は天晴れであったといわざるを得ない。

その第一回臨床検査技師養成コースの
卒業生が永田・仲本の両ベテランなのである。
「仲地さん。どうね、先天代謝異常の話。衛研でやれますか」。
「おお、、お安い御用ですよ。それなりの施設・備品を整えてくれれば、
原理はそれほど難しくないですからね」。

こうして、極めて稀な先天性疾患を検索する事業がスタートした。
最初、衛研だけで行われていたこの特殊な検査も、
その後民間財団法人(沖縄県総合保健協会)に技術移転され、
いまでは定常業務として着々と実施されている。

「こんなに稀でわずかではあっても、
劣悪因子の遺伝性疾患を救出していったら、
その分だけ日本民族全体の資質が劣化していくのではないか」という
研修会場での質問に対して厚生省の技官が答えた。

「こんなわずかな遺伝因子を日本民族に残すという影響よりも、
もっと膨大なマイナス要因が環境劣化や食品汚染から
人類に入り込んでいるんです。
われわれが救い出した先天代謝異常児から、
将来日本を救う偉人が出てくるかも知れませんよ」。
「どんどん救い出して下さい」。




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琉球衛研物語
総インデックス
全72セクション・リンク
§1 全国の衛生研究所とその働き
§2 琉球衛生研究所の生い立ち
§3 衛研の庁舎新築
§4 衛研への本土学者の応援
§5 保健婦のためいき
§6 ハブの啼き声
§7 地から湧く日本脳炎
§8 燃える井戸
§9 アルミニューム工場誘致問題
§10 ワシントン条約とサンシン
§11 ホテルに泊まったニシキヘビ
§12 性病Gメン
§13 毒ガス移送問題
§14 米軍PCP汚染事件
§15 沖縄県公衆衛生協会誕生
§16 牛糞をこねる男
§17ゴールデンシャワーとの出会 い
§18 熱帯花木オンパレード
§19 田熱・レプトスピラ症
§20 テイシューが湧く井戸
§21 蚊が死なない
§22 野ネズミが消えた
§23 バガス病
§24 危し宮古島地下水脈
§25 宮古島地下水対策協議会誕生
§26 水納島上陸作戦
§27 ハブとの住み分け大作戦
§28 国場川を埋め尽くす死魚
§29 南大東島水銀事件
§30 ハブの成長曲線
§31 血清銀行
§32 吹きまくる風疹
§33 轟く基地公害
§34 怒る中山貞則長官
§35 MSA対決
§36 毒牙の生え変わり
§37 寄生虫予防協会誕生
§38 多発する赤痢
§39 魚介類のコバルト汚染問題
§40 シガテラによる食中毒
§41 先天性代謝異常検査開始
§42 「青年の家」とハブ
§43 全校生徒眼が痛い!?
§44 ソロモンの星の下で
§45 平敷式血液塗末標本処理器
§46 古戦場ガダルカナルで
§47 塩漬け琉球列島
§48 中華料理店症候群
§49 逃げたハブ
§50 タリュウム中毒事件
§51 タバコとハブ
§52 ひよこの特攻隊
§53 アフリカマイマイ
§54 杜総明先生との再会
§55 沖縄にも肺吸虫
§56. 衛研、大里の新天地へ
§57 新庁舎建設委員会
§58 コレラ菌安謝川を汚す
§59 クワズイモのえぐ
§60 ハブ探索犬
§61 目下フンセンチュウ
§62 アスベスト撤去作戦
§63 JICAの研修生受け入れ
§64 久高島にハブ
§65 ヴェロニカ製ろ過装置
§66 のた打ち回る島々
§67 サミット先生のこと
§68 カンボジア沖縄友好の会誕生
§69 アセアンの森
§70 チョウケイの転戦
§71 寝たきり予防
§72 郷土劇 “ゆいまある





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