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吉田朝啓が公衆衛生の最前線「衛生研究所」を舞台に描く、
知られざる戦後・沖縄のリアルな裏面史!


基地内の墓所へフェンスの外から遥拝する光景が復帰後も続いている
 吉田朝啓

琉球衛研物語

 Ryukyu Eiken Monogatari 1946〜1993

本土復帰までの日数を告げる琉球政府の掲示板

赤痢、日本脳炎、基地公害、米軍毒ガス移送から、ハブ、性病、アスベスト問題まで、ドクトル吉田朝啓が第五代所長として勤務した「琉球衛生研究所」は、米軍統治を背景に、戦後の沖縄の混乱と復興の中で、ありとあらゆる問題が発生した。ここには、歴史家や、マスコミが取り上げていない、沖縄戦後史に埋もれた特異な陰の部分が横たわっていて、史料的価値が高いばかりか、現代の日米地位協定に基づく、様々な問題と通底していて、見逃せない。
(編集人、サイト制作&運営 樋口謙一)


琉球衛研物語 §28.
国場川を埋め尽くす死魚


1970年11月、
突如として豊見城高校前から真玉橋にかけての国場川で、
夥しい量の死魚が浮かんだ。

指折り数えられるほどの魚ではなく、トン単位の莫大な量である。
浮いた魚は、主としてテラピアで、丸々と太った成魚や幼魚、
在来種の小魚まで含めて無慮数十トン。

岸辺から川の本流にかけて累々と浮かぶ死魚の群れを見て、
付近住民は驚愕した。新聞も大きく報道し、世論は騒然となった。

気温が急に低くなる秋・冬には、
熱帯地方出身のテラピアが時々凍えて浮かぶことは
県内の中小河川ではよく見かける現象で見慣れているが、
かくも大量の魚が死んで浮くのを視て背筋が寒くなり、
近くの住民の心中は穏やかではいられない。

因みに、テラピアはカワスズメ科の淡水魚。
戦後(1954年)に食用として台湾から移入されたというが、
これが貪欲な生き物で、川底のプランクトンや藻類、
生活排水中の有機物なども食べ、極めてタフな魚だ。

だが、水温が10度cになると死んでしまう。
本土では、温泉地の温水を利用して養殖し
“サクラダイ”などと売り出しているが、
河口付近の汚水に群れをなしている様子を見た人なら、
とても口にする気にはならない不気味な外来種である。



国場川は首里の弁が岳辺りに源を発して、
那覇市の南部、与那原町・南風原町の低地帯を
ほぼ東から奥武山漫湖に流入する二級河川で、延長10km余、
途中、南から入る長堂川や饒波川と合流して那覇港に注ぐ。

戦前は、上流地帯の豊かな森や緑地帯に涵養された清らかな水が
いつも満々と流れて、すばらしい川だった。
真玉橋の石組みの橋脚は水面に丸い影を映していて
極めて牧歌的な風景を見せていたし、
そこまでサバニが行き来していたことをチョウケイは覚えている。

魚の腸を仕掛けたカニ籠を橋の上から水中に降ろすと、
間もなく大きなガサミ(ワタリガニ)が数匹獲れたものである。
丸太ん棒のようなボラの大群が橋の下を
泳いでいたのも印象に鮮やかである。
当時、テラピアなどという外来種はまだいなかった。

大量死魚の報告を受けて、主管の環境衛生課が現場調査に動き、
衛研が原因物質の究明に当たった。

原因はすぐ判った。
国場川沿いにあるシロアリ駆除資材集積所の火災で、
缶入りの殺虫剤ダイアジノンが爆発飛散し、流出したもので、
致命的な魚毒ともいえる農薬殺虫剤が濃厚に流れ込んだものだから、
晩秋の気温・水温が10度c近くにまで下がった時期でもあり、
南方育ちのテラピアがやられたのだ。


その頃、日本復帰を前にして、沖縄でもいわゆる公害問題が頻発し、
川や海や地下水が悲鳴を上げてのた打ち回っているかのような状況が、
マスコミで頻りに報道されるようになっていた。

この国場川に限らず、沖縄の河川は、いまや瀕死の状態である。
農耕地で散布される殺虫剤や化学肥料、工場廃水、
豚舎や養鶏場からの汚水、家庭排水など、
川の自浄作用の限界を遥かに超える量の負荷が常時加えられていて、
川は窒息している。

不特定多数の企業や人の生活活動が原因となって
人や自然が害を受けるとき、これを公害というが、
今回の国場川汚染は公害というより、一企業のミスによる環境破壊であり、原因究明と対策は比較的容易であった。

チョウケイは、医学部学生時代、一応環境衛生学を学んだつもりだが、
とても身の回りの狭い環境を見る物差しでは計り知れない
公害問題であることを思い、
改めてロンドンで聞いた環境衛生の講義録を引っ張り出し、
公害学を学ぶ毎日であったが、その矢先の大量死魚事件である。

事件が落着した頃、環境衛生課から、電話が入った。
「所長、豊見城高校から公害についての講義依頼のようです」
「三年生だけでも、全員を講堂に集めるから、自然保護と公害について話をして欲しいということです」。チョウケイは往くことにした。

黒板に“川の自浄作用”と大書して、
人間のいじめにあっても、
川はなんとか生き延びようと日夜努力することを説明し、
川への支援を訴えた。

川の自浄作用
(1)雨水やきれいな地表流水で川は自分を希釈する。
(2)汚れを下流へ流す。
(3)汚れを沈殿させる。
(4)伏流水でろ過してきれいにする。
(5)陽光を受けて清潔を保つ。
(6)生物の力を借りて有機物を無機物にして浄化する。
(7)空気に触れて(曝気して)きれいにする。

次のセクション「§29. 南大東島水銀事件」へ





琉球衛研物語
総インデックス
全72セクション・リンク
§1 全国の衛生研究所とその働き
§2 琉球衛生研究所の生い立ち
§3 衛研の庁舎新築
§4 衛研への本土学者の応援
§5 保健婦のためいき
§6 ハブの啼き声
§7 地から湧く日本脳炎
§8 燃える井戸
§9 アルミニューム工場誘致問題
§10 ワシントン条約とサンシン
§11 ホテルに泊まったニシキヘビ
§12 性病Gメン
§13 毒ガス移送問題
§14 米軍PCP汚染事件
§15 沖縄県公衆衛生協会誕生
§16 牛糞をこねる男
§17ゴールデンシャワーとの出会 い
§18 熱帯花木オンパレード
§19 田熱・レプトスピラ症
§20 テイシューが湧く井戸
§21 蚊が死なない
§22 野ネズミが消えた
§23 バガス病
§24 危し宮古島地下水脈
§25 宮古島地下水対策協議会誕生
§26 水納島上陸作戦
§27 ハブとの住み分け大作戦
§28 国場川を埋め尽くす死魚
§29 南大東島水銀事件
§30 ハブの成長曲線
§31 血清銀行
§32 吹きまくる風疹
§33 轟く基地公害
§34 怒る中山貞則長官
§35 MSA対決
§36 毒牙の生え変わり
§37 寄生虫予防協会誕生
§38 多発する赤痢
§39 魚介類のコバルト汚染問題
§40 シガテラによる食中毒
§41 先天性代謝異常検査開始
§42 「青年の家」とハブ
§43 全校生徒眼が痛い!?
§44 ソロモンの星の下で
§45 平敷式血液塗末標本処理器
§46 古戦場ガダルカナルで
§47 塩漬け琉球列島
§48 中華料理店症候群
§49 逃げたハブ
§50 タリュウム中毒事件
§51 タバコとハブ
§52 ひよこの特攻隊
§53 アフリカマイマイ
§54 杜総明先生との再会
§55 沖縄にも肺吸虫
§56. 衛研、大里の新天地へ
§57 新庁舎建設委員会
§58 コレラ菌安謝川を汚す
§59 クワズイモのえぐ
§60 ハブ探索犬
§61 目下フンセンチュウ
§62 アスベスト撤去作戦
§63 JICAの研修生受け入れ
§64 久高島にハブ
§65 ヴェロニカ製ろ過装置
§66 のた打ち回る島々
§67 サミット先生のこと
§68 カンボジア沖縄友好の会誕生
§69 アセアンの森
§70 チョウケイの転戦
§71 寝たきり予防
§72 郷土劇 “ゆいまある”





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