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吉田朝啓が公衆衛生の最前線「衛生研究所」を舞台に描く、
知られざる戦後・沖縄のリアルな裏面史!


コザのゴヤゲート通り。英語の看板と戦前の製糖工場の煙突の取合せの妙。1956年頃
 吉田朝啓

琉球衛研物語

 Ryukyu Eiken Monogatari 1946〜1993

マーロン・ブランド主演映画「八月十五夜の茶屋」のモデルとなった辻の料亭「松乃下」

赤痢、日本脳炎、基地公害、米軍毒ガス移送から、ハブ、性病、アスベスト問題まで、ドクトル吉田朝啓が第五代所長として勤務した「琉球衛生研究所」は、米軍統治を背景に、戦後の沖縄の混乱と復興の中で、ありとあらゆる問題が発生した。ここには、歴史家や、マスコミが取り上げていない、沖縄戦後史に埋もれた特異な陰の部分が横たわっていて、史料的価値が高いばかりか、現代の日米地位協定に基づく、様々な問題と通底していて、見逃せない。
(編集人、サイト制作&運営 樋口謙一)


琉球衛研物語 §17.
ゴールデンシャワーとの出会い


インドでのマラリア防圧研修旅行も2週目に入った。

大型ジープに分乗、村から村へと走り回った一行は、
小さなホテルに着いた。晩い夕食を済ませると、
揺すられていた全身の神経と筋肉が突然解放されて、ぐったりとなり、
全員倒れ込むようにバタンキューと寝てしまった。

暑苦しい夜も、大陸では朝までには冷えて爽やかとなる。
あくる朝、寝ぼけ眼を瞬きながらホテルの前に出たチョウケイは、
思わず立ち竦んでしまった。

インドでの2回目のカルチャーショックといえようか。
広場の角に立っている高さ10mほどの一本の老木。
枝という枝すべてから垂れ下がる金色の花房が、
朝日を浴びて燦然と輝く一大スペクタクル。「なんだこれは!!」

日本の花木の楚々としたイメージからは、断然はみ出た豪華絢爛、
圧倒的な輝きとボリュウームの、
熱帯花木ゴールデンシャワーの満開であった。

本居宣長が賛美した“朝日に匂う山桜花”も、
全体のボリュームでは引けをとらないかも知れない。
が、この目も眩むほどの金色の輝きはどうだろう。
日本列島では経験することのできない異質の花の色調に打たれて、
しばらく声もなく立ちつくした。

カルチャーを文化と訳すなら、このような自然物の美に驚くことを
カルチャーショックというのは当たらないかも知れない。

しかし、アフリカの大草原、アンデス山脈の雪景色、マニラ湾の夕日とか、
全く人手の加わってない大自然の場合はともかく、
人里で花木を植えて育てるという行為は、
すでに立派な文化的な営みとみていいだろう。

その意味で、インドのこの貧しい村の宿で数十年の間守り育てた
ゴールデンシャワーの老木に誇りを持っているであろう村人たちには
脱帽せざるを得ない。

チョウケイは快いカルチャーショックの中に浸っていた。

ゴールデンシャワー。
学名をCassia fistula、和名をナンバンサイカチというマメ科の熱帯花木。
インド、ビルマ(ミャンマー)、タイ辺りを原産地とする高木で、
毎年初夏に黄金色の花を夥しく下垂させるので、
公園木、街路樹として活用される人気者。

満開となると、馥郁とした芳香が漂い、黄金色の花の輝きと相まって、
辺りを荘厳な宗教的な雰囲気にしてしまう不思議な植物である。

花が最盛期を過ぎると、すべての枝の節から若葉が萌え出る頃、
どこからともなくモンシロチョウ類ウスバキチョウなどが飛んできて、
まるで散ったはずの花びらが舞い戻ってきたように
無数に乱舞するようになる。
二度目の天然のスペクタクルである。

その後、一ヶ月もたたぬうちに、
今度は蝶に産み付けられた卵は幼虫となり、若葉を食い荒らす。

虫たちが葉を蚕食するときの微かな音が数百数千の大合唱となり、
ムシャムシャ・ザワザワと、はっきり聞こえるようになる。
このような情景描写を又聞きしただけで身震いして
シャワー嫌いになる人もいるが、チョウケイは、
このようなお天道様の配剤、大自然の精巧な営みが大好きである。

花の後、受粉したメシベが日に日に長くなり、棒のようなサヤとなる。
鞘の中には大豆ほどの硬い種子が数多く並ぶが、
その種子を取り巻く黒褐色の粘っこいパルプに、
実は古くから子宮収縮剤として利用される成分が含まれているといわれる。

ところで、沖縄は亜熱帯。
熱帯花木が露地で楽しめる日本では唯一の地域である。
インドで咲くゴールデンシャワーが沖縄で咲かない道理はない!と、
チョウケイ先生はまたまた野心を募らせる。

かつて、南米大陸ボリビアの熱帯花木トックリキワタ(トボロチ)の
豪華な咲きっぷりに魂を奪われた経験のあるチョウケイ先生。
今度は黄金色のナンバンサシカチの導入と普及を生涯の趣味にしようと、
稚気稚気蛮蛮の決心をするのだった。

琉球列島は熱帯の北限にあり、温帯の南限ともなっていて、
温帯、亜熱帯、熱帯の三つの気候帯を享受できる
世界でも稀な海洋性の地帯である。

この三つの気候帯の植物を季節に合わせて楽しむことができる。
かつて高温多湿に支えられて多くの熱帯性風土病が沖縄を苦しめたが、
これらが駆逐された今、逆に高温多湿の亜熱帯性気候が
熱帯植物の繁茂を可能にして、観光地沖縄を根底から支えている。

インドの奥地から導入されたナンバンサイカチの子孫が、
いま県内の至る所で大木となり、町や村を飾っている。


通称ゴールデンシャワー、和名ナンバンサイカチ



次のセクション「§18.熱帯花木オンパレード」へ




琉球衛研物語
総インデックス
全72セクション・リンク
§1 全国の衛生研究所とその働き
§2 琉球衛生研究所の生い立ち
§3 衛研の庁舎新築
§4 衛研への本土学者の応援
§5 保健婦のためいき
§6 ハブの啼き声
§7 地から湧く日本脳炎
§8 燃える井戸
§9 アルミニューム工場誘致問題
§10 ワシントン条約とサンシン
§11 ホテルに泊まったニシキヘビ
§12 性病Gメン
§13 毒ガス移送問題
§14 米軍PCP汚染事件
§15 沖縄県公衆衛生協会誕生
§16 牛糞をこねる男
§17ゴールデンシャワーとの出会 い
§18 熱帯花木オンパレード
§19 田熱・レプトスピラ症
§20 テイシューが湧く井戸
§21 蚊が死なない
§22 野ネズミが消えた
§23 バガス病
§24 危し宮古島地下水脈
§25 宮古島地下水対策協議会誕生
§26 水納島上陸作戦
§27 ハブとの住み分け大作戦
§28 国場川を埋め尽くす死魚
§29 南大東島水銀事件
§30 ハブの成長曲線
§31 血清銀行
§32 吹きまくる風疹
§33 轟く基地公害
§34 怒る中山貞則長官
§35 MSA対決
§36 毒牙の生え変わり
§37 寄生虫予防協会誕生
§38 多発する赤痢
§39 魚介類のコバルト汚染問題
§40 シガテラによる食中毒
§41 先天性代謝異常検査開始
§42 「青年の家」とハブ
§43 全校生徒眼が痛い!?
§44 ソロモンの星の下で
§45 平敷式血液塗末標本処理器
§46 古戦場ガダルカナルで
§47 塩漬け琉球列島
§48 中華料理店症候群
§49 逃げたハブ
§50 タリュウム中毒事件
§51 タバコとハブ
§52 ひよこの特攻隊
§53 アフリカマイマイ
§54 杜総明先生との再会
§55 沖縄にも肺吸虫
§56. 衛研、大里の新天地へ
§57 新庁舎建設委員会
§58 コレラ菌安謝川を汚す
§59 クワズイモのえぐ
§60 ハブ探索犬
§61 目下フンセンチュウ
§62 アスベスト撤去作戦
§63 JICAの研修生受け入れ
§64 久高島にハブ
§65 ヴェロニカ製ろ過装置
§66 のた打ち回る島々
§67 サミット先生のこと
§68 カンボジア沖縄友好の会誕生
§69 アセアンの森
§70 チョウケイの転戦
§71 寝たきり予防
§72 郷土劇 “ゆいまある”





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