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吉田朝啓が公衆衛生の最前線「衛生研究所」を舞台に描く、
知られざる戦後・沖縄のリアルな裏面史!


ドル交換所風景
 
吉田朝啓

琉球衛研物語

 Ryukyu Eiken Monogatari 1946〜1993

米軍毒ガスから命を守ろう横断幕

赤痢、日本脳炎、基地公害、米軍毒ガス移送から、ハブ、性病、アスベスト問題まで、ドクトル吉田朝啓が第五代所長として勤務した「琉球衛生研究所」は、米軍統治を背景に、戦後の沖縄の混乱と復興の中で、ありとあらゆる問題が発生した。ここには、歴史家や、マスコミが取り上げていない、沖縄戦後史に埋もれた特異な陰の部分が横たわっていて、史料的価値が高いばかりか、現代の日米地位協定に基づく、様々な問題と通底していて、見逃せない。
(編集人、サイト制作&運営 樋口謙一)


琉球衛研物語 §09
アルミニューム工場誘致問題


日本復帰直前の1970(昭和45)年、
アメリカのアルミ大企業“アルコアAlminium Company of America”が
沖縄に進出するということが公表され、世論に波風が立ち始めた。

世界最大のアルミニューム会社“アルコア”が狙ったのは、
石川市と金武村の境界線辺り。
これに対抗して日本軽金属・住友化学・昭和電工など
いわゆる日本のアルミ5社が共同出資で“沖縄アルミ”を作り、迎え撃った。

アルミニュームは、地球上の大地に大量にある金属で、
ドイツの学者によってはじめて分離され、
フランスの学者によっ て工業化の端緒が開かれてからは、
急速に軽合金時代の立役者となり、
人類活動のあらゆる分野で活用されるようになった。

軽くて、展延性に優れて加工し易く、熱・電気の伝導性が大きいなど、
他の金属にない特質のために航空機、自動車 、船舶、鉄道などに
多用され、家庭用品にも大量に使われている。

正に現代はアルミニューム時代といっても過言ではない。
ところが、原料であるポーキサイトからアルミナを経て
アルミニュームを精錬するまでの工程が大規模で、
トン当たり消 費電力18000キロワットや大量の水という
関連資源消費が膨大であるばかりでなく、
アルミ工場から出るフッ素ガス や火力発電所から出る亜硫酸ガスによる
大気汚染が懸念されるため、沖縄本島東海岸の住民が震え上がった。

アルミ工業が立地するには、先ず、
原鉱石の搬入港湾、関連工業の発達、豊富な電力と水資源を併せ持つ
地域が必要だが 、これらの立地条件のどれをとっても本島東海岸は、
“失格!”と、住民は見て取ったし、
あまつさえ、フッ素ガスや亜 硫酸ガスによる大気汚染の恐れが
払拭されない以上、到底受け入れられないと、
大方の住民が感じたのである。

復帰の翌年、“アルコア”が沖縄進出を断念した時、
“沖縄アルミ”が、石川市に対して「海岸の約70万uの埋め立て、
40万kWの火力発電所・年産20万トン日本最大のアルミ精錬工場の建設」を中身とする計画案を提 出した。

市当局と市議会が莫大な事業税に魅力を感じてか、
積極的に誘致に動き出したが、農・漁民や一般市民の側も黙 っておれず、“アルミ工場誘致反対石川市民協議会”を結成して、
勉強会や講演会を開催したり、
近接の金武村や恩納村とも提携して対抗した。

なにしろ、青い空と青い海、白い砂浜の静寂な農漁村が、
ひねもすのたりのたりと簡素な生業を続けているところへ、
いきなり日本最大のアルミ精錬工場が出現するというのだから、
人々がビビッてしまうのも無理もないことではある。

「酸 性雨による森林被害」、「四日市の工業地帯で起きた四日市喘息」 
「東京・大阪・名古屋・北九州での光化学スモッグ事件」など、
本土各地での大気汚染による公害事例が頻繁に報道され ており、
大型工場のもたらす被害の大きさと永久に失われるであろう
東海岸の自然の豊かさを思い、立地を拒む方向へ固まっていった。

1970年、赴任間もない衛研のチョウケイ所長に
県の公害対策室から電話がきた。
アルミ問題で、本土のアルミ工場視察団に加わって
調査をしてきて欲しいという出張命令である。

根っからの“スイダヤー”であるチョウケイとしては、
公害紛争などのややっこしい問題には係わりたくないのだが、
本庁の命令からは逃れられない。

琉球大学の池端教授(生物学)を団長とする調査班には、
衛研の森山研究員(化学担当)とチョウケイ所長(公衆衛生担 当)、
農学の専門家、行政官が加わり、
マスコミも同行しての物々しい集団であった。

愛媛県の新居浜、新潟県の直江津、北海道の苫小牧で、
すでに盛大に操業しているアルミ精錬工場を次々と視察した
調査 団の結論は、明確であった。

差し渡し僅かに4kmほどの
石川〜仲泊線(本島中部のくびれた部分)近くに、
日本最大のアルミ精錬工場が立地して繁盛した場合の状況を
想像しただけで、閉塞感に襲われる。

それほど、本土の三つの地区のアルミ工場周辺は惨状を呈していた。
田んぼの稲も、民家の柿やミカンなどの果樹も、
里山の木々も“満目百里”打ちひしがれて、気息奄々といった状況である。

北国の秋は、どこも草木が色褪せて
動植物が影を潜める時季とは知っていても、
それが自然の成り行きであれば納得 できるが、
このうらぶれた風景が、アルミ工場から谷間沿いにあるいは尾根を越えて
流れるフッ素ガスの所為だと聞かされたときは、唖然としてしまう。

これほどの惨害を住民は黙って容認しているのかと尋ねると、
説明に当たった係官は、「保障が十分支払われているので」と、
小さい声で答えた。

アルミ工場が予定されていた場所には、
現在沖縄電力火力発電所だけが立地していて、
調和よろしく電力の安定供給に貢 献している。

現在の石川発電所
 現在の石川発電所



次のセクション「§10.ワシントン条約とサンシン」へ




琉球衛研物語
総インデックス
全72セクション・リンク
§1 全国の衛生研究所とその働き
§2 琉球衛生研究所の生い立ち
§3 衛研の庁舎新築
§4 衛研への本土学者の応援
§5 保健婦のためいき
§6 ハブの啼き声
§7 地から湧く日本脳炎
§8 燃える井戸
§9 アルミニューム工場誘致問題
§10 ワシントン条約とサンシン
§11 ホテルに泊まったニシキヘビ
§12 性病Gメン
§13 毒ガス移送問題
§14 米軍PCP汚染事件
§15 沖縄県公衆衛生協会誕生
§16 牛糞をこねる男
§17ゴールデンシャワーとの出会 い
§18 熱帯花木オンパレード
§19 田熱・レプトスピラ症
§20 テイシューが湧く井戸
§21 蚊が死なない
§22 野ネズミが消えた
§23 バガス病
§24 危し宮古島地下水脈
§25 宮古島地下水対策協議会誕生
§26 水納島上陸作戦
§27 ハブとの住み分け大作戦
§28 国場川を埋め尽くす死魚
§29 南大東島水銀事件
§30 ハブの成長曲線
§31 血清銀行
§32 吹きまくる風疹
§33 轟く基地公害
§34 怒る中山貞則長官
§35 MSA対決
§36 毒牙の生え変わり
§37 寄生虫予防協会誕生
§38 多発する赤痢
§39 魚介類のコバルト汚染問題
§40 シガテラによる食中毒
§41 先天性代謝異常検査開始
§42 「青年の家」とハブ
§43 全校生徒眼が痛い!?
§44 ソロモンの星の下で
§45 平敷式血液塗末標本処理器
§46 古戦場ガダルカナルで
§47 塩漬け琉球列島
§48 中華料理店症候群
§49 逃げたハブ
§50 タリュウム中毒事件
§51 タバコとハブ
§52 ひよこの特攻隊
§53 アフリカマイマイ
§54 杜総明先生との再会
§55 沖縄にも肺吸虫
§56. 衛研、大里の新天地へ
§57 新庁舎建設委員会
§58 コレラ菌安謝川を汚す
§59 クワズイモのえぐ
§60 ハブ探索犬
§61 目下フンセンチュウ
§62 アスベスト撤去作戦
§63 JICAの研修生受け入れ
§64 久高島にハブ
§65 ヴェロニカ製ろ過装置
§66 のた打ち回る島々
§67 サミット先生のこと
§68 カンボジア沖縄友好の会誕生
§69 アセアンの森
§70 チョウケイの転戦
§71 寝たきり予防
§72 郷土劇 “ゆいまある”





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